総研大 文化科学研究

論文要旨

民族衣装の既製服化

―中国雲南省のミャオ族衣装の変化の様相―

総合研究大学院大学 文化科学研究科 地域文化学専攻 宮脇 千絵

キーワード:

ミャオ/モン族、民族衣装、既製服化、変化

本稿の目的は、中国雲南省のミャオ族(自称はモン)の民族衣装の変化について、既製服化という現象に焦点を当ててその過程と特徴を明らかにし、既製服化することで民族衣装とその担い手であるミャオ族自身の生活の何が変化したのか、あるいは変化していないのかを考察することである。

雲南省文山のミャオ族は現在でも民族衣装を製作し、日常的に着用している。しかし1990年代以降、そこに大きな変化が訪れている。それが既製服化である。

1980年代まで、ミャオ族の衣装は大麻を原料とし、家庭の女性によって製作されていた。このような衣装の特徴は、作り手の意匠による微細な変化はあるものの従来のスタイルから逸脱することがないこと、そして晴れ着と日常着の違いが新旧の差であったことである。

1990年代に入り、専門の服飾工場や個人経営者によって既製服化がはじまると、製作作業の工程が分業され効率化が図られた。また工業生産された化繊布を使用するため、デザインや色が大きく変わり、流行がみられるようになった。そしてそのことにより晴れ着と日常着の差異は流行のものかどうかになった。

そして既製の民族衣装は、アメリカのモンからの購入により進展するとともに、地元文山での購買力をも増加させている。いずれにしても、経営者は個人の裁量によって消費者を獲得しているし、その消費者とはたとえ国境を跨いでいても、ルーツとアイデンティティを共有するミャオ族(モン)自身なのである。

地元文山でも既製の民族衣装の購入が増えているが、ミャオ族女性たちの日常生活における動作と姿勢から要求される機能性、および結婚式や儀礼の際に現れるミャオ族としての価値観をみると、ミャオ族が自然に既製の民族衣装を受け入れている様子が分かる。

以上から、既製服化にともない製作方法、デザインや色、装い方が変化したことが明らかになる。そしてミャオ族の民族衣装の既製服化にみられる特徴は、個人の裁量による「大量」生産、および消費者は個人的繋がりに基づいた「顔のみえる」相手であることがあげられる。しかしそれらが「ミャオ族の衣装」として認識され続けていることに変化はない。ミャオ族は既製服化という急激な変化を従来からの断絶とはとらず、これまでの延長であるととらえ、ただミャオ族としてミャオ族の衣装を着用し続けているのである。