総研大 文化科学研究

論文要旨

回族の葬送儀礼から見る人々のつながり

―中国・西安市の化覚巷清真大寺における葬送儀礼を事例として―

総合研究大学院大学 文化科学研究科 地域文化学専攻 今中 崇文

キーワード:

回族、清真寺、葬送儀礼、人々のつながり

本論文は、中国西北部の陝西省西安市にある化覚巷清真大寺で営まれた回族男性の葬送儀礼を事例として、その過程を詳細に記述するとともに、そこに参列する人々が故人とのどのようなつながりにもとづいて参列しているかを分析する。

イスラームを信仰する少数民族である回族は、漢語を話し、容貌も漢族に相似しておりながら、その教義に則った食規制や日々の儀礼実践などといった生活上の便宜から、清真寺と呼ばれる宗教施設を中心に相互に独立したコミュニティを形成していることで知られている。とくに都市の回族コミュニティをめぐっては、都市部の再開発にともなう再編や消失といった大きな変化が指摘されている中で、西安回族は伝統的な姿を保持しているとされてきた。

西安回族の葬送儀礼については、故人が息を引き取って、その遺体が自宅から清真寺に運び込まれるまでの過程から、死者の姻戚関係が重要な役割を果たしているとされてきた。しかしながら本事例においては、清真寺内で営まれた宗教儀礼の観察から、故人が発起人となって結成された宗教活動に熱心な信徒グループが、故人と親しい関係にあった宗教職能者の指導のもと、葬送儀礼の様々な場面に関わっていることが明らかになった。一方で、彼らは同じ清真寺に所属するどの死者の葬送儀礼にも積極的に関与しているわけではなく、関係性の濃淡によって区別していることが分かる。

また、葬送儀礼だけに限らず、日常の礼拝などにおいて、若い信徒の姿が見られなくなってきていることも指摘される。漢族の経営する一般企業に勤めると、イスラームについての理解が得られず、礼拝にやって来る時間を確保することができないというのがその理由である。そのような状況に対する年配の信徒の批判も多々聞かれるが、若いうちは仕事を優先してお金を稼ぎ、老後を送るために十分な蓄えを得ることができたら早めに引退して信仰に専念するという新しいライフスタイルの萌芽も見られる。

さらに、本事例の葬送儀礼に参列していた人々のほとんどが同じ清真大寺に所属する回族であったが、他に観察する機会のあった葬送儀礼においては、死者の親族関係にもとづいて他の清真寺にも案内が通知され、自らの所属する清真寺で礼拝を行ってから葬送儀礼に駆けつけるなど、ひとつの清真寺で完結するものではないことが指摘できる。