総研大 文化科学研究

論文要旨

図像の数量分析からみる春画表現の多様性と特色

―江戸春画には何が描かれてきたのか―

総合研究大学院大学 文化科学研究科 国際日本研究専攻 鈴木 堅弘

キーワード:

春画、浮世絵、遊女、遊廓、江戸文化、ポルノ、データベース、統計、図像、男色

これまで春画といえば、性表現を扱った絵画として研究対象から除外されてきた。ところが近年、こうした傾向はしだいに改善され、春画に関する研究書が数多く出版されるようになり、春画の公開データベースが大学や研究所で作成されている。

こうした春画研究の進展を受けて、今回、国際日本文化研究センターに所蔵されている春画・艶本コレクションの三五〇〇画図を分析対象とし、江戸春画に描かれた図像表現を数量として把握することを目的とした。その方法として、一枚の春画から「性描写の有無」、「性交者の性別」、「性交者の立場(男性)」、「性交者の年齢(男性)」、「性交者の立場(女性)」、「性交者の年齢(女性)」、「第三者の有無」、「第三者の立場」、「第三者の年齢」、「第三者の行為」、「場所」、「場所の種類」、「場所の開放性の有無」の図像情報をカテゴリー別に抜き出し、その数量を数えることで、春画に描かれた人物(立場)、性別、場所などの割合を算出する。そのことで、江戸春画に描かれた図像表現の全貌を明らかにする。

また春画は性表現を多分に含んでいるがゆえに誤解も多く、ポルノグラフィと同意義に扱われたり、男色画や手淫画などが多く描かれていると考えられてきた。そこで本考察では、江戸春画の特色を正確に把握することで、こうした誤解をひとつひとつ解いていき、これまでの春画認識に新たな見解を示す。

なお本論では、春画の図像を分析する際に、同時代の風俗画や随筆類を積極的に参照した。江戸春画には当時の生活風景がありのままに描かれており、春画表現を通じて江戸時代の色恋の風俗を読み解くことも試みている。