総研大 文化科学研究

論文要旨

国家による宗親会への管理と利用

―1990年代以降における福建省南部の政府の宗親会政策から考える―

総合研究大学院大学 文化科学研究科 比較文化学専攻  陳  夏晗

キーワード:

福建省南部(閩南)、宗親会、政府の文化政策、政府の行政政策

宗族と宗親会は、中国人社会によく見られる父系親族組織である。福建省南部にはこの二つのタイプの組織が存在している。1990年代からは、宗族と宗親会はともに復興を遂げてきた。宗族が発達する閩南地域では、宗親会は、同姓宗族の連合であり、同姓宗族の利益を代弁するという社会的性格を持っている。

しかし、1990年代から、宗族の復興に対し、政府は対応しておらず、明確な政策方針を確立していないが、宗親会伝統の復興に対し、政府は対応して認可と制限のある寛容な文化・行政政策を確立した。つまり、宗族と違い、宗親会は政府より利用・管理されている。本論文は福建省南部の政府の宗親会政策を例にし、林姓宗親会の事例研究に基づいて宗親会伝統が現代政治のなかで作られている様子を検討する。

中国社会の親族組織の形成と役割に対する研究においては、「社会がどのような仕組みで社会を組織するか」という古い命題に関連するだけではなく、国家と社会の相互関係の中で、親族組織はどのように基礎社会の社会構造と民間文化のモデルになるのかという問題が、長らく中国社会の親族組織研究の注目点となっている。現在の国家と社会の相互関係に関する議論の中で、社会に関する討論はもちろん非常に重要であり、学者達にも関心をもたれている。例えば、社会はどの程度で自身の独立性を維持し、およびどの程度、国家に対応し、またはそれを支持し、あるいはどの程度、国家権力の浸透に抑制や制限を行うかなどである。しかし、同時に国家側に対する分析を十分に重視すべきであり、例えば、国家にとって、どのように社会が必要であり、どのように社会を利用し、どのように社会を管理するかなどである。特に宗族とは異なり、政府は宗親会に関し明確な利用と管理の政策を創り出した。宗親会と宗族に関する現代中国政府の政策の相違について、現代中国社会の宗親会研究においては国家側の政策を整理していくことがとても重要になっている。これは、現代中国における宗親会の存続環境を把握することに役立つだけではなく、今後国家と社会の相互関係の角度から現代宗親会を研究する際の必要な基礎である。