総研大 文化科学研究

論文要旨

活仏の世俗的訓話とその役割

―ホボクサイル・モンゴル社会における
シャリワン・ゲゲン十四世の事例に注目して―

総合研究大学院大学 文化科学研究科 地域文化学専攻  ナムジャウ

キーワード:

ホボクサイル・モンゴル、シャリワン・ゲゲン、活仏

本稿は多民族・多宗教を有する新疆の地において、少数派のホボクサイル・モンゴルが信仰するチベット仏教がいかに成り立っているかを考察することを目的とする。特にシャリワン・ゲゲン十四世に焦点をあて、シャリワン・ゲゲンの出身地であるホボクサイル・モンゴル社会におけるシャリワン・ゲゲン十四世の役割について、日常生活をめぐる訓話と医療・災害をめぐる訓話といった事例を通して分析した。

ホボクサイル・モンゴルでは非日常的な状況、あるいは極端な状況にあるとき、シャリワン・ゲゲンを必要とし、他方ゲゲンもそうした信者の信仰によって存立しえる。ゲゲンは人々の社会生活や心に寄り沿った助言に努め、それが両者の関係をより近密なものへと結びつけている。こうしてシャリワン・ゲゲン十四世はホボクサイル・モンゴルの信仰を代表する明示的なシンボルとなっている。シャリワン・ゲゲン十四世の存在、活動、社会に果たす役割を明らかにすることは、ホボクサイル・モンゴルの信仰と宗教生活を明らかにするに留まらず、中国の宗教政策の中核部分の一端を明らかにするとともに、多宗教状況における少数派宗教の在り方という世界的に共通する問題を考える上でも重要であると考えられる。