総研大 文化科学研究

論文要旨

「安倍晴明と病」
中世説話における医師、陰陽師、
僧侶が病気に対して果たした役割をめぐって

文化科学研究科・国際日本研究専攻 ハイエク マティアス

キーワード:

安部晴明、陰陽道、医師、密教僧、中世説話文学、陰陽師、占い、病因、表象、平安時代、鎌倉時代。

拙稿は中世説話を土台にして、そこに現れる安部晴明の表象を検討した上、今までほとんどなかった観点から平安・鎌倉期における陰陽師が病気に対して果していた役割を明にする試みである。『今昔物語』と『古今著聞集』における陰陽師、医師、加持、病等という単語を含んだ説話をはじめ、『古事談』、『続古事談』、『撰集抄』、『私聚百因縁集』における晴明と病気を結ぶ説話に描かれている陰陽道の専門家、医師、僧侶の表象を、語られている平安時代のみならず、説話集が編集された鎌倉時代の歴史的事実と比較しようとした。その結果、陰陽師の代表者である晴明は人間・自然界外の現象とされる病の原因を、占いで見極め、医師や僧侶が手に負えない病気に解答を与え得たことを明確にしようと試みた。陰陽師のイメージを医師と験者の双方と比較し、安倍晴明が代表する陰陽道家たちの特色を見出した上で、その時代での陰陽師の実態や陰陽道の実質を明らかにしたといえる。