総合研究大学院大学 文化科学研究科 文科・学術フォーラム 2008

ポスター発表

ポスター発表

性欲の社会史

発表者所属名
国際日本研究専攻・国際日本文化研究センター
発表者氏名
井上 章一(国際日本文化研究センター教授)

研究の内容

我々は、「性欲の文化史」という研究会を、3年間続けてきた。今度は、「性欲の社会史」へ、挑むことにする。扱うのは、どちらも性欲である。その点では、変わりがない。ただ、性欲という対象に挑む、その構えは変えている。文化史であるよりは、社会史的に挑んでいきたいという志に、新しさはある。
たとえば、つれあいの選び方を問題にしたい。生物学は、様々な動物の異性に対する好みをしばしば明らかにしようとする。しかし、人間の場合、ことはそう単純でもない。どういう異性を好むかは、時代により民族により、異なっている。いわゆる美人観、美男観には、文化的なずれがある。文化史に携わる研究者は、それらがいかに違っているのかを調べていく。
人間は、自分が好みだと思う異性を、必ずしもつれあいとして選べる訳ではない。この人が一番だとは思えない相手で、折り合いをつけることも、ままある。
のみならず、社会が好みの異性へこだわることを許さぬ場合も、ないではない。夫婦の縁組みは、互いの容姿を知らずに決める。そんなことよりは、家柄や血筋のつりあいを重んじる。つれあいを世間へ披露する、その宴にいたるまで、妻になる人、夫になる人の顔も見ない。そんな夫婦選びさえ、人間はしばしば営んできた。
つれあいの決め方だけに限ったことではない。人間の性欲は、文化のみならず、社会によっても、縛られている。社会もまた、人々の性的な振る舞い、あるいは想いを、ある枠の中に閉じこめてきた。一見解き放っているようにうつる社会でも、性欲があふれ出す向きを整えているものである。
そして、社会が性欲と向き合うそのありようも、一つには限らない。人間は、様々な関わり合いを、これまでに繰り広げてきた。この研究会では、我々がたどってきたその筋道を、追いかけてゆく。
なお、その広がりは、今回も日本を中心とした東アジアの近代に、とどめたい。