総合研究大学院大学 文化科学研究科 文科・学術フォーラム 2008

ポスター発表

ポスター発表

植民地帝国日本における支配と地域社会

発表者所属名
国際日本研究専攻・国際日本文化研究センター
発表者氏名
松田 利彦(国際日本文化研究センター准教授)

研究の内容

本共同研究は、研究代表者(松田)が行った共同研究「日本の朝鮮・台湾支配と植民地官僚」(2004~2006年度に行われた)を継承発展させつつ、その視座を各植民地の地域社会により密着した方向に展開することを企図したものである。
「日本の朝鮮・台湾支配と植民地官僚」において、共同研究員の関心がもっとも集中したのは、植民地官庁の各部門における個別具体的な官僚(あるいは官僚群)のプロフィールと政策構想という問題だった。その結果、法務・財務・土木・技術・逓信・警察・教育・鉄道・宗教など多様な分野に即して、どのような官僚がいかなる政策思想をもち、それがどのように実際の政策に結びついていたかについて、多くの事実を明らかにすることができた。しかし反面、官僚によって導入された政策が現地社会とどのように切り結んだのか、という問題には十分に切りこむことができなかった。このような反省から今次の共同研究「植民地帝国日本における支配と地域社会」では、支配政策の実施過程において、現地の朝鮮人・台湾人あるいは在住日本人などからどのような抵抗・非協力・協調などの反応が生じたのか、という局面に視点を下降させることを企図している。
本研究の設定している対象は、近年の植民地史研究において活発に論議されている諸理論と多くの接点をもつ。たとえば、権力による規律の内面化のような負の側面から近代を捉えようという問題意識に発し、近年の植民地史研究に影響を及ぼしている「植民地近代(Colonial Modernity)論」(鄭根植・松本武祝ら)、官僚の支配政策の実施と朝鮮地域社会の間に両者を媒介した「有志」の存在を措定しようとする「官僚―有志支配体制論」(池秀傑ら)などは、いずれも植民地権力と現地社会の関係性に着目した議論ということができる。ただし、本研究は特定の理論に立って歴史を跡づけようとする立場からは一線を画したい。こうしたさまざまな視角の採るべき点はとり入れつつも、実事求是によって、特定の理論からはこぼれ落ちてしまいがちな事象をも拾い上げていくことが本研究のスタンスである。
このような研究によって、共同研究「日本の朝鮮・台湾支配と植民地官僚」を補完し、植民地社会を立体的に捉えるとともに、植民地支配政策と現地社会の間の政治空間において生じた多様な関係をすくい上げることをねらいとしている。