総合研究大学院大学 文化科学研究科 文科・学術フォーラム 2008

ポスター発表

ポスター発表

「東洋美学・東洋的思惟」を問う : 自己認識の危機と将来への課題

発表者所属名
国際日本研究専攻・国際日本文化研究センター
発表者氏名
稲賀 繁美(国際日本文化研究センター教授)

研究の内容

東アジア文化圏が、西欧との対比において自らを意識し、それを「アジア」として括るに至るのは、おおよそ1930年代のこととみてよいだろう。そしてそれは、ほかのさまざまな領域とならんで、東洋の美と思想をめぐり突出した思索表現をみせる。本研究では、その歴史的実相に迫るとともに、その理論的射程を現在の時点にたって問い直す。こうした問題意識を育んだ両大戦間の世界市民意識は、第二次世界大戦後の国際意識、さらにはオリエンタリズム論争を経由して、ポスト・モダンのグローバル化へと変貌を遂げて、現時点に至っている。東洋の美意識は(アフリカや南米とともに)これから将来、人類の文明の将来にとっていかなる位置を占め、いかなる貢献を求められているのか。
本研究では、このような問いに検討を加えるため、狭義の美術史や美学、思想史に限定することなく、文学、宗教、政治など隣接領域からの参画も得て学際的な接近を試み、また韓国・中国のみならず、イスラーム圏を含め、アジア意識の帰趨を国際的な視野のもとに考察したい。また第一次世界大戦を経た時期の欧米では、西欧の行き詰まりを打開するための方策を東洋に求める一群の思想家たちも登場する。かれらの思索の可能性を再検討するため、西洋思想史をはじめとする分野の専門家の参加も得て、世界文化・文明史における「東洋」の命運と将来への課題につき、総合的な見通しを与えたい。
30年代に模索された東洋の美と思想をめぐる思索は、西欧側からの期待に応答する性格を宿していた。西欧内部での知的な需要に応じるかぎりで、東方からの供給は歓迎された。だが期待に反する異質性は受け入れを拒絶された。東洋に期待される異質性とは、西欧の許容範囲という均質性の限界を超えない限りでしか有効でない。その許容限界を超えた異質性は、無効なものとして排除された。いわゆる東西の知的対話は、この需要・供給関係に抵触しない範囲に自己限定されている。この枠組みをいかにして脱却できるのか。この課題には重大な知的挑戦が秘められている。