総合研究大学院大学 文化科学研究科 文科・学術フォーラム 2008

ポスター発表

ポスター発表

発掘調査と地域住民との関係―ペルー・インガタンボ遺跡の発掘―

発表者所属名
文化科学研究科・比較文化学専攻
発表者氏名
山本睦

インガタンボ遺跡は、ペルーの首都リマから北に約1,000km。アンデス山脈の東を山間部から熱帯地域へと流れるワンカバンバ川の南岸、海抜1,000mのところに位置している(図1)。

先史アンデス形成期(紀元前2500-0)研究では、アンデス文明の形成に際し、社会的統合の中心として祭祀建造物の果たした役割に加え、山間部と海岸部、あるいは熱帯地域、および北のエクアドルとの相互交流の重要性が指摘されてきた。しかし、本調査対象地域では、上記の諸問題の解明にとって鍵となる地域とされながらも、これまで研究がなされてこなかった。

よって、2006年と2007年にインガタンボ遺跡の発掘調査を実施した。結果、アンデス形成期(B.C.1500-250)とインカ期(A.D.1470―1533)にわたる祭祀建造物の建設過程が明らかとなった。また、出土資料の分析によって、ペルー北部の海岸部や山間部、エクアドル南部の考古資料との高い類似性が指摘され、インガタンボ遺跡がペルー北部地域における地域間交流の中継地として重要な役割を果たしたことが認められた。

先行研究では、形成期前期から中期、あるいは後期への変化は、建設規模や地域間交流の増大として捉えられてきた。しかし、ある遺跡を中心に社会変化と祭祀建造物の建設、および地域間交流の相関関係を実証的に示し、具体的な社会変化の様相を捉えた点において、この研究は、新しい展開の可能性を示したといえる。また、研究未開拓地において、当該地域独自の社会過程の一端を明らかにし、新しい知見を提供したことで、多くの研究者の注目を集めている。

発掘調査では、長期間フィールドに滞在し、地域住民を巻き込んで調査を進めるため、彼らの生活に与える影響は大きい。また、調査遺跡や出土資料が観光資源としての価値を付与され、政治的・経済的思惑が錯綜することもある。これまで報告者は、遺跡見学会を行うとともに、発掘終了時には地域住民を対象に調査成果をプレゼンテーションしてきた。これは、自分たちの歴史を知る、または深く考える機会を模索する住民からの強い要望でもあった。調査地の地域住民の歴史への知的好奇心は非常に高く、また、考古資源を地元の観光開発にいかそうと考える動きもあり、本調査が実施されることが切望されている。近年、調査成果の還元が声高に叫ばれているが、これらはその第一歩であり、村人主導の社会開発の礎となるとも考えられる。今後は、調査を通じて、相互理解を深め、先史学や人類学の学術的な土壌だけではなく、地域社会、つまりは実社会に具体的に貢献していきたいと考えている。