総合研究大学院大学 文化科学研究科 文科・学術フォーラム 2008

ポスター発表

ポスター発表

有珠4遺跡出土ガラス玉の自然科学分析

発表者所属名
日本歴史研究専攻 国立歴史民俗博物館
発表者氏名
新免 歳靖

研究の概要

近年、北海道内の中世および近世アイヌ墓や集落遺跡から多数のガラス玉が出土している。特に、中世から近世中頃の遺跡からは、墓の副葬品として複数のガラス玉が一括して出土する事例が報告されており、北方民族との交易(後に和人との交易)によってガラス玉を入手していたと考えられている。これらは現在、アイヌ民族資料として伝世している「シトキ」や「タマサイ」への系譜を示すとともに、ガラス玉を保持する事自体が、アイヌ民族の成立と存在を示す文化的な要素の一つとして捉えられている。
しかし、出土したガラス玉については、おおまかな概要が明らかとなっているに過ぎず、個々の型式的な特徴や変遷は検討されていない。また、現在、各地の博物館に所蔵されているシトキやマサイについても、入手された時期や場所・経緯が不明なものが多く、実証的な研究はなされていない。これらのガラス玉は、近世期(一部、明治か?)に製造された日本製・中国製、さらには西欧・朝鮮製のガラス玉が混在している可能性が高く、アイヌ民族の交易の様相が、具体的に反映されている可能性が大きいのである。
そこで本研究では、中近世の北海道から出土したガラス玉の整理を行い、時間軸に沿った上での、ガラス玉の変遷(形状・色彩・製作技法、首飾りとしての一括性、他の装飾品との共伴関係、出土遺構など)を検討する。あわせて、自然科学分析(蛍光X線分析・鉛同位体分析)によるガラス玉の材質や生産地に関する情報を加味することで、アイヌ民族のガラス玉使用と流通の実態を明らかにしたいと考えている。特に、中国産・日本産・西欧産などの産地を明確にすることで北方圏におけるガラス玉流通の解明への足がかりになるとともに、実態が不明瞭な日本産ガラスの流通についても重要な知見が得られると期待している。
今回の調査では、伊達市噴火湾文化研究所において、有珠4遺跡から出土したアイヌ文化期のガラス玉の資料調査・分析資料の借用を行った。有珠4遺跡ではGP001・GP008の2基のアイヌ民族の墓から、50点ほどのガラス玉が出土している。いずれも女性が埋葬されており、出土したガラス玉は首飾り(タマサイ)を形づくっていたと考えられる。また、火山灰層から遺構年代を1640~1663年の間に絞ることができるため、北海道におけるガラス玉の流通・使用を考える上で、年代的な基準資料となる。
現在、有珠4遺跡においてガラス玉を出土した2基の墓の内、GP008号墓から出土したガラス玉の自然科学分析を実施している。本遺構出土のガラス玉は、蛍光X線分析の結果、その大半の材質がカリウムを含んだ鉛ガラス(カリ鉛ガラス)であり、16世紀中頃という時期を考慮すると、中国製である可能性が高い。今のところ、非破壊の定性分析のみを実施している状況であるが、正確な元素組成や鉛同位体比測定を行い、さらなる製作技術・生産地などに関する情報の蓄積を行っていきたい。