総合研究大学院大学 文化科学研究科 文科・学術フォーラム 2008

学生による口頭発表

学生による口頭発表

春画の世界について

発表者所属名
国際日本研究専攻 国際日本文化研究センター
発表者氏名
鈴木 堅弘

今回の発表は、日本近世期の春画に関する見方を報告するものである。  従来より江戸時代の春画は、エロティックアートとして注視されてきたが、本発表ではそのような観点からではなく、春画に描かれた性表現以外の多様な要素を紹介することを目的とする。そこで、以下の[1]から[4]の項目を中心に、近世期の春画文化が描いてきた特異な図像を見ていくことにしたい。

[1]「笑ひ」としての性表現

江戸時代の春画といえば、近代のポルノや現代のエロティック写真と同じようにとらえられているが、じつは人間の性の営みを滑稽に描いた「笑ひ」の表現であった。そもそも江戸時代において春画は「笑絵」、「笑本」と呼ばれ、男性が用いる書物というよりも、一般庶民の情事を喜劇的に表現するために描かれた。そのような江戸時代の人びとの性の現場にまつわる滑稽な世界を紹介したい。

[2]第三者の登場 子供・動物・覗き

また江戸時代の春画には、性行為を行う男女に加えて第三者が描かれていることが多い。ここでは、その第三者に注目し、春画表現の目的が男女の性行為のみに注視するものではなく、むしろ他人の性を眺める第三者の存在を笑うことにあったことをいくつかの図像を通じて確認してみたい。なお、春画世界には、第三者として、子供や動物がたくさん描かれており、動物が人間の言葉を話すことで読者の笑いを誘う表現もなされている。

[3]奇想の導入

江戸時代の春画表現のなかには、人間同士の性表現のほかに、動物、怪物、神仏などの性行為も数多く描かれている。ここでは、そのような奇想の表現に注目し、江戸時代の春画表現が人間の性の営みのみを対象としたのではないことを見てみたい。なお、奇想の表現が春画に含まれる背景には江戸期の趣向主義の観点が深くかかわっており、同時代の歌舞伎、教訓書、草紙本などから画題が転用されることも多かった。

[4]教訓書との類似と差異

江戸時代の春画表現を考えるうえで非常に重要な点は、儒学思想や庶民教化などの教訓文化との関係性である。そこで今回は、既存の教訓書を性表現に転じた春画艶本を紹介し、春画文化が教訓文化と表裏関係になっていたことを確認してみたい。また、江戸文化の特徴のひとつである「まじめ」と「戯れ」の間を往き来する発想の事例を、これらの春画表現を通じてとらえてみたい。

なお、本発表においては、学術的な成果を報告するものではなく、今後の研究活動に役立てるための資料紹介に留めておくつもりである。

出典:国際日本文化研究センター艶本資料データベース
資料:『欠題組物』(鳥居清信画 刊年不明)

出典:国際日本文化研究センター艶本資料データベース
資料:『欠題組物』(鳥居清信画 刊年不明)