総合研究大学院大学 文化科学研究科 文科・学術フォーラム 2008

学生による口頭発表

学生による口頭発表

後期更新世から初期完新世の九州南部における植生変化

発表者所属名
比較文化学専攻
発表者氏名
渋谷綾子

後期更新世から初期完新世の日本列島の植生変化後期更新世から初期完新世にかけて,日本列島では気候が温暖化し,温帯森林が北へ拡大した。この森林の北進は列島の各地で環境変化をもたらした。大型・中型獣の狩猟機会を減少させた上に,人間の適応戦略として海洋資源や森林資源の開発と利用を促進させ,生業活動に大きな影響を与えた。この生業の大変革は「定住革命」と呼ばれており,人間の生活要素にさまざまな変化と統合をもたらし,列島の狩猟採集漁労民たちは農耕を開始するようになった。


最終氷期の頃,九州地域は冷温帯針葉樹林気候であり,本研究が対象とする九州南部では気候の温暖化がみられ,それにともなった植生変化は後期更新世の比較的早い段階から始まった。遺跡から出土する植物遺存体の中で堅果類の発見事例が多いことから,この地域の人びとは森林資源の開発と利用に依存していたと推定されている。特に,植物資源の保存・活用技術は,調理用の土器や石皿・磨石・敲石類によって発達し,人間の定住生活を促進することとなった。


本研究では,鹿児島県の旧石器時代と縄文時代の遺跡から出土した石器よりデンプン粒の検出を試みた。研究の対象とした石器のうち,最も古い資料の年代は年代測定によって3万年前という年代が提示されている。検出したデンプンについて植物の同定が可能となれば,九州南部の旧石器時代から縄文時代にかけての利用植物を解明することとなり,後期更新世から初期完新世の温暖な時期における植生変化を実証することにもつながる。そこで,研究ではデンプンの形態,形態と単独粒(1粒単独の状態)・複数粒(複数の粒が密集した状態)との関係,検出量と形態との関係,資料の種類ならびに遺跡と検出デンプン粒の形態との関係を確認した。本発表では,これらの調査結果を報告する。