シンポジウム

シンポジウム

博物館の役割―集める・保つ・伝える・究める―

開催趣旨

 学術交流フォーラムは、総合研究大学院大学の文化科学研究科における六つの専攻の学術的交流を目的に2006 年より開催されてきました。「フォーラム」は、もともと専攻を超えた学生の交流を謳った「学生合同セミナー」として2005年に初めて行われ、翌年名称が「文科(文化科学研究科の略)フォーラム」に改まって、3年間続きました。また2007年からは教員主体の「学術フォーラム」も立ち上げられ、「文科フォーラム」に並行して行われていました。「学術交流フォーラム」は、本来同じ目的意識から生まれたこれらふたつの「フォーラム」が、統合されて一本化したものです。


 今年度は、日本歴史研究専攻が置かれる国立歴史民俗博物館(歴博)を会場として、学生による研究発表のほか、「博物館の役割―集める・保つ・伝える・究める―」というテーマでシンポジウムを行います。

 学生企画委員の趣旨によれば、「資料の収集・保存・公開・研究は、博物館が担っている重要な役割ですが、それらは、様々な学問分野の研究成果が集積し、培われた手法に基づいた営み」であり、「今日の変動する社会情勢の中で、博物館が、今後どのような活動に取り組んでいくべきなのか、どんな情報発信をしていくのか」という問題関心により企画されました。

 博物館に限らず、個々の研究者はその日常において、意識することなく資料の収集、保存・整理、分析、公開などの流れで研究を遂行していると思われます。今回のシンポジウムでは、自覚的にその研究プロセスを自省し、社会や国民に対して自己の研究がどのような役割を果たすべきなのかを考えてみたいと思います。個々の研究分野だけでは見えてこない多様な研究手法や公開方法を比較検討することにより、知的な刺激を受ける場にできればよいと思います。


 連動してワークショップでも、テーマの「伝える」ということに焦点を当て、開催中の企画展示「行列からみた近世」や各分野の学生研究を素材にして、一般の人々にどのよう に効果的に伝える(展示する)かの方策を協働して考える場としたいと思います。

日本歴史研究専攻長 仁藤 敦史

企画趣旨および内容報告

 今回のシンポジウムは、開催地の国立歴史民俗博物館の特徴を生かし、「博物館の役割―集める・保つ・伝える・究める―」をテーマとしました。資料の収集・保存・公開・研究は博物館が担っている重要な役割ですが、私たちはそれらを「さまざまな学問分野の研究成果が集積し、培われた手法に基づいた営み」と、とらえました。人間の活動が本来多面的なものであるがゆえに、その文化的資料の解析にさまざまな専門分野を持つ研究者が連携し、参画することは、その価値を総合的に明らかにしていくことにつながるはずです。また、現代社会においては「博物館の役割」に、新たな問いが投げかけられている側面もあると考えられます。今日の変動する社会情勢の中で、博物館が今後どのような活動に取り組んでいくべきなのか、どんな情報発信をしていくべきなのかという点にも、議論を進めていきたいと考え、企画しました。


 シンポジウム当日は、日本歴史研究専攻の仁藤敦史先生の進行のもとで、日本文学研究専攻の落合博志先生、メディア社会文化専攻の近藤智嗣先生、日本歴史研究専攻の小島道裕先生より三本のご講演をいただいた後、コメンテーターとして地域文化学専攻の久保正敏先生と国際日本研究専攻の荒木浩先生、そして学生コメンテーターとして日本文学研究専攻の紅林健志さんと国際日本研究専攻の門脇朋裕さんから感想をいただきました。


 落合先生は国文学研究資料館の展示室の現状を紹介し、そして今後の課題として、展示室をいかに有効に利用し、文学研究の報告と文学の紹介を両立した展示を作っていくかという問題を提起してくださいました。近藤先生は、「ミクストリアリティ」という概念を、国立科学博物館の恐竜展示を例に紹介してくださり、博物館展示の解説メディアにおける進化と課題を提示されました。小島先生は、博物館展示制作の最前線に活躍されていることから、博物館(展示制作者)と観客の関係を考え、いかに一緒に「歴史像」を作り上げるかという歴史展示に求める根本的な問題について、ご意見を述べられました。その後三名の先生方のご講演に対して、久保先生は現状か復元かという議論を主題に、国立民族学博物館の展示における模型、そして3.11の記憶を伝える方法について、荒木先生は国際日本文化研究センターの共同研究会から発信されたデジタル画像の解説・研究方を切り口にコメント頂き、紅林さんと門脇さんにはご自身の経験と重ねながらコメントや感想を述べていただきました。


 今回のシンポジウムは、その内容を単なる「博物館学」としてとどまることなく、様々な分野から博物館の総合的な意義について議論できました。これらの議論の中で指摘された新たな課題は、今後改めて博物館の役割について考える上で重要な論点となることでしょう。

学生企画委員 屋代 純子・王 莞晗

※講演者・パネリスト・司会者の略歴は、2012年10月時点のものです。
[ 司会 ]
[ 日本歴史研究専攻 教授 ]仁藤 敦史 略歴
[ 講演者 ]
歴史を展示するということ
[ 日本歴史研究専攻 教授 ]小島 道裕 略歴講演内容

ディスカッション

[ パネリスト ]
[ 地域文化学専攻 教授 ]久保 正敏 略歴
[ 国際日本研究専攻 教授 ]荒木 浩 略歴
[ 日本文学研究専攻 教授 ]落合 博志 略歴
[ メディア社会文化専攻 准教授 ]近藤 智嗣 略歴
[ 日本歴史研究専攻 教授 ]小島 道裕 略歴
[ 学生コメンテーター ]
[ 日本文学研究専攻 ]紅林 健志
[ 国際日本研究専攻 ]門脇 朋裕

ディスカッション内容