総括

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文化科学研究科 学術交流フォーラム2014 成果瞥見と将来への展望

 

 まずは画期的といってもよい企画の実現に漕ぎ着けた学生企画委員、担当の先生方、それに実施会場を提供された国立民族学博物館の先生方にも、深く御礼もうしあげます。

 

 本年度の実施のうち、将来への布石となるのは、まず全体管理方式を改め、個別企画ごとにできるかぎり個別の責任者、企画者を立てた運営方針でしょう。たしかに最終的に全体を統御する東城義則委員長には思わぬ責任が伴い、全体調整も楽ではなかったことと思います。また国立民族学博物館が開催地であった特殊要因は勘定にいれるべきでしょう。とはいえ、ある程度以上の規模の複合的な企画には、全体管理方式では対応不可能です。

 

 大きく3つの企画が設けられました。順不同ですが、まず料理体験ワークショップでは菅瀬晶子先生によりパレスティナの日常食、ムジャダラの文化背景まで浮彫にされました。復活祭の聖週間の行事や聖母信仰などに触れた一方、ドルーズ派には輪廻転生の信仰がありますが、その背景をめぐって哲学史的な議論まで展開されました。管理上の問題があって、調理室への出入りがやや面倒だったのは事実です。つぎに博物館ホールで開催された音・音楽ワークショップでは、まず伊藤悟研究員により瓢箪笛の実演と解説が聴衆を魅了し、後半ではチャンドラ・バスカラの演奏に仁科エミ先生の講演が組み合わせられました。ガムランの非可聴領域音が可聴領域音と競合して人間の脳に好ましい影響を与えているといった実験成果は、演奏者の皆さんも初耳だったようです。ミンパク所蔵の楽器がメディア研究科の教員の働きによって活性化されたのも、専攻横断による学術的成果として貴重でした。聴講者による即興の演奏まで実現してしまう授業技術からも、大いに学ぶところがありました。座学だけでは得られない達成感が、演奏に参加して初めて体得できました。

 

 これらが2日目午前中だったのに対して初日には研究講演が催されました。2部構成となったため、半分しか傍聴できていません。その範囲で敢えて意見するなら、通常の学会発表を踏襲したような小講演を専攻ごとに羅列して披露するのではなく、話題をより有機的に収斂させると、議論がさらに盛り上がるように思います。また講評は教員に担当させておけばよいのでしょうか?必ずしも専門家ではない聴衆を相手になにを訴えるか、も大切です。パネル・ディスカッション「共同研究から見つめる文科のいまとこれから」では「ハワイにおける日本文化の変容」のみを聴講しましたが、事前に今少し打ち合わせをしておけば、関連の人類学研究者などから、より有益な補助情報が得られるかな、と思いました。

 

 2日目の最後は大元神楽の研究公演でした。これは鈴木昂太さんの研究とミンパクの一般公演とが手を結んで初めて実現できる祭典でした。あらためて物心両面でお力添えを頂いた須藤館長にも御礼申し上げます。現在、学術フォーラムは必修といった位置づけはしていませんが、参加すればタメになるという実績から、他研究科も含めた参加者が増えればなによりと考えます。学生企画委員の負担がいささか過剰であるのは事実ですが、これは将来への投資となれば相殺以上の価値があるはずです。ポスター発表にあれだけの数の応募があったのですから、潜在的にはまだ開発の余地が多々あるでしょう。逆にプログラムがいささか過密になりすぎ、時間管理が煩くなりすぎる傾向には注意したほうがよいでしょう。分科会方式が最良なのかどうかにも、検討の余地がありそうです。敢えて題目を絞ることも、ひとつの見識でしょう。研究科長として最後に個人的な感想を差し挟むなら、SOKENDAIの文理融合プログラムでの成果(科長担当)と、通称「海賊科研」での成果を是非とも「共同研究」の先行事例の教訓として発表したかったのですが、ポスター発表に留まって、折角のノウハウや失敗談を在籍院生の皆様に開陳する機会を逸しました。これには捲土重来、またの機会を期待したいと思います。運営経費が来年度以降も確保されるか否かも不安定要因ですが、実績を根拠に学長に訴える所存。関係者一同の労を労いつつ。

 

平成27年2月10日
研究科長
稲賀繁美

平成26年度学術交流フォーラムを終えて

 

 平成26年度の総合研究大学院大学文化科学研究科の学術交流フォーラムは1年あけての開催だったことから(平成25年度には実施しなかった)、担当教員としては非常に緊張していた。前回の平成24年度実施のフォーラムは国立歴史民俗博物館を会場として実施し、担当の仁藤敦史先生が学生たちを組織して見事な采配をふるって実施されており、こちらは2年かけて準備しておいて無様なものをやるわけにはいかないというプレッシャーがかかっていたことは否めない。しかも、担当教員を引き受けたものの、前回の見事なフォーラムに圧倒されるばかりでこちらには何のアイデアも浮かばない。

 

 しかし、教員側がだめな場合にはその下にいる学生たちが動かざるをえないために、逆に学生側から次々とアイデアが生まれて結果的にうまくいくこともある。今回学生企画委員として集まってくれた学生たちはいずれも個性豊かであるとともに、新鮮な発想の持ち主ばかりだった。少々危ないものもあったが、正直彼らが出してくるアイデアにこちらが舌を巻くことが多かった。まず強烈だったのは神楽を上演するという日本歴史研究専攻の鈴木昂太さんの企画だった。それは準備のかなり早い段階で提案されてきて、実は私は準備期間中ずっとそのことが頭から離れなかった。その上で国際日本研究専攻の光平有希さんの音楽ワークショップと比較文化学専攻の西山文愛さんの料理ワークショップが提案されてきて、これらの行事だけで私の頭の中のフォーラムはいっぱいになってしまった。そのために、国際日本研究専攻の春藤献一さんと日本文学研究専攻の黄昱さんがポスター発表や口頭発表、それにパネルディスカッションなどを準備していると聞いて正直ほっとした。そして、当日報告やポスターの様子を観察していて、これだけのことをよく短時間にここまで準備できたなと感心していたのである。これもおそらくは事務局を引き受けてくれた卒業生の宮脇千絵さんと、今年度の学生企画委員長としてフォーラム全体を統括していた地域文化学専攻の東城義則さんの采配によるものだったのだろう。

 

 12月20日と21日の両日には研究科の教員と学生併せて70名ほどが会場に集まり、研究報告、ポスター発表ともに活発な議論が行われた。さらに21日のワークショップと神楽には一般の来館者も多数集まった。したがって、人の集まりという意味でのフォーラムとしては成功だったといえるだろう。しかし、本フォーラムの主題である「文化をカガクする?」という問題提起に対してどこまで応えることができたかについては、参加した学生たちの今後の研究の行方を見定める必要があるかもしれない。

 

 最後になりましたが、学生企画委員会で貴重な助言をいただいてきた学融合推進センター特任教員の藤井龍彦先生と七田麻美子先生、ワークショップでご指導いただきましたメディア社会文化研究専攻の仁科エミ先生と国立民族学博物館の菅瀬晶子先生、見事な神楽を上演してくださった市山神友会の皆さん、口頭発表、ポスター発表、パネルディスカッションでご報告いただきました教員と学生の皆様、そして会場に集まっていただいた方々全員に心より感謝申し上げます。また、本フォーラムの開催に全面的にご協力いただきました総合研究大学院大学学融合推進センターと国立民族学博物館に御礼申し上げます。

 

平成27年2月13日
地域文化学専攻長(フォーラム担当)
佐々木史郎

平成26年度 学生企画委員

[ 委員長 ]東城 義則(地域文化学専攻)
西山 文愛(比較文化学専攻)
光平 有希(国際日本研究専攻)
春藤 献一(国際日本研究専攻)
[ 副委員長 ]鈴木 昂太(日本歴史研究専攻)
黄 昱(日本文学研究専攻)

学術交流フォーラム事務局

宮脇 千絵(国立民族学博物館 外来研究員)

文化科学研究科長・専攻長

稲賀 繁美教授(研究科長)
[ フォーラム担当 ]佐々木 史郎教授(地域文化学専攻長)
笹原 亮二教授 (比較文化学専攻長)
松田 利彦教授(国際日本研究専攻長)
小池 淳一教授(日本歴史研究専攻長)
仁科 エミ教授(メディア社会文化専攻長)
山下 則子教授(日本文学研究専攻長)